中途採用されたシステムエンジニアに対する本採用拒否が違法無効とされた事例(東京地判H28.8.26) | あつみ法律事務所
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中途採用されたシステムエンジニアに対する本採用拒否が違法無効とされた事例(東京地判H28.8.26)

  1. ■事案の概要
  2. システムエンジニアとして中途採用され、ソーシャルゲームの開発業務を行っていたXさんは、3か月の試用期間が経過する際、本採用の拒否を会社から告げられました。これに納得できなかったXさんは、本採用拒否の無効を主張し、労働者たる地位の確認と、就労を拒絶されてからの賃金の支払を求める裁判を起こしました。

  3. ■解雇・本採用拒否の要件
  4. 会社が、雇い入れた労働者を解雇する場合には、客観的に合理的な理由(労働能力の欠如、規律違反行為等)と、解雇が社会通念上相当であること(労働者側の情状、他の労働者への対応との比較等)が必要とされています。このことは、試用期間を定めて雇い入れた労働者の本採用を拒否し、雇用関係を終了させる場合であっても、同様です(ただし、通常の場合よりも、能力や適格性の判断に関する会社の裁量が広くなるとされていることには、注意が必要です。)。

  5. ■ポイント
  6. 裁判では、コーディングの作業に関し、Xさんがある記法を知らなかったことや、前職での経験に固執して上司の指示に従わなかったこと等が、本採用拒否の理由として会社から主張されました。 しかし、裁判所は、プログラマーが習得するプログラミングの手法は実務経験を積む環境によって異なってくるとした上で、Xさんが上司から指示された手法と実際に採用した手法とを比較し、Xさんが上司の指示に従わなかったことにも相応の合理的な理由があったなどと判断しました。 その結果、Xさんに対する本採用の拒否には客観的に合理的な理由がないから無効であるとして、1000万円を超える不就労中の賃金の支払を会社に命じる判決が言い渡されました。

  7. ■おわりに
  8. 会社が、気に入らない労働者を社外に排除するためだけに、適当な理由を付けて解雇をすること(少なくとも、依頼者のお話を聞く限り、そのように考えざるを得ないこと)は、しばしば見られる出来事です。このような場合、さっさと他の会社に就職して新しい生活を始めた方が合理的な場合もあるでしょうが、それでは納得の行かないこともあるかと思います。(だからこそ、このようなページを見ているのかもしれません。)
    一度解雇された会社に戻ってまた働くということは現実的ではないのですが、裁判で解雇が無効と判断された場合、不就労期間中にもらえるはずであった賃金の支払が命じられることになります(ただし、再就職先から賃金を受けていた場合には、一定の減額がされることがあります。)。 不合理な理由で解雇をされたと考えている方は、弁護士費用を考慮してもなお経済的に実入りのある結果が得られることもありますので、一度、解雇の効力を争うことを検討されても良いかもしれません。
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