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同定可能性を丹念に主張立証し、発信者情報の開示仮処分命令が発せられた事例

  1. ■事案の概要
  2. ※プライバシー保護のため事案を抽象化しています。
    Xさんは、スレッド型の匿名掲示板に、私生活上の秘密に関する情報を書き込まれてしまいました。
    Xさんは、プライバシーを侵害されたとして投稿者に損害賠償を請求するため、匿名掲示板の管理者に対し、投稿者を特定するための情報(発信者情報)の開示を求めたいと考えました。

  3. ■「同定可能性」の要件
  4. インターネットへの投稿により権利が侵害されたとして発信者情報の開示を求めるためには、その投稿が、被害者とされる特定の人に言及していると分かるものでなければなりません。このように、①「投稿に表れる人」と、②「現実を生きる特定の人」とが同一人であると分かることを、「同定可能性」といいます。
    投稿中に実名がフルネームで書かれているような場合、その人のことを知っている人からすれば、その名前が誰を指すかは明らかだと思われるかもしれません。しかし、多くの場合、同姓同名の人が他にいる可能性がありますから、実名だけでは同定可能性はなかなか認められにくいのです。
    そのため、投稿された実名以外の情報と組み合わせることで、それが誰に言及したものかを丁寧に説明する必要があります。その際には、投稿自体に含まれる情報以外にも、スレッドのタイトルや、他の投稿の内容も、同定可能性の主張のために利用できることがあります。

  5. ■ポイント
  6. この事案では、Xさんは、スレッドに実名とハンドルネームを晒されてしまいましたが、発信者情報の開示仮処分を担当する裁判官は、当初、それだけでは同定可能性を認めることは難しいと、渋い顔をしていました。Xさんは、知人とのやり取りの際にもこのハンドルネームを使用することがありましたが、実名とハンドルネームとの組合せによっても、同定可能性は認め難いとのことでした。
    そこで、担当弁護士は、投稿のあったスレッドの過去ログをさかのぼり、かつてXさんに関する話題が投稿されていたこと(この時は実名までは書き込まれておらず、ハンドルネームのみが投稿されていました。)、問題の投稿は、この過去の投稿と合わせて読むことで、Xさんとより強く結び付くことを主張・疎明(立証)しました。
    その結果、実名とハンドルネームを含む投稿につき、掲示板の管理者に発信者情報の開示を命ずる仮処分命令が発せられました。なお、後に、経由プロバイダに対する本案訴訟を経て、投稿者を特定することができています。

  7. ■おわりに
  8. 「発信者情報の開示仮処分」というと、定型的な流れ作業を行うというイメージがあるかもしれません。それは一面では正しく、他面では誤りです。
    迅速さが要求される仮処分命令の手続では、決まりきった作業を手際よく遂行することは不可欠です。
    しかし、実際に発令を得るためには、①「投稿に表れる人」と②「現実を生きる特定の人」をパズルのように結び付ける、地道な作業も避けることができません。そして、この作業は、Xさんの事案で見られたように、決して定型的なものではありません。
    発信者情報の開示仮処分が簡単なものではないことを実感しながら、工夫によって結果を得ることができた事案でした。
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